業種別:税務調査対応(その5)~国際取引~

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渡邊 崇甫税理士(元国税局 調査官)
公開日:2017年8月20日

国際取引における主な争点

国際取引に対する税務調査において主な争点となるのは、海外子会社など国外の関係会社との取引についてであり、寄附金課税、安値販売など取引価格の是正(移転価格税制)、ペーパーカンパニーの海外子会社の利益の合算課税(タックスヘイブン税制)などがあげられます。

≪海外子会社等への寄附金課税≫

資金力の弱い海外子会社の財務支援等のために本来海外子会社が負担すべき費用を負担したり、実体のない業務委託契約を締結するなどして資金を移転させる行為などが税務調査で寄附金として認定され課税されます。国際取引をめぐる税務調査では最も問題となるテーマといえます。

≪転価格税制≫

海外子会社など国外の関係会社に対して商品やサービスの安値販売や高値購入をした場合、すなわち価格の設定により所得が海外に移転しているケースにおいて、同じ商品やサービスを独立した企業間で取引された場合に成立したであろう価格(独立企業間価格)で取引があったものとして課税されることとなります。ただ、独立企業間価格の算定は極めて高度なノウハウを要するため、国税局の特定の部署が担当します。税務署の調査では、特別なノウハウを要しない簡易な移転価格案件(海外子会社への無償の役務提供、無利息・低利による資金貸付など)が事実上、主な争点となります。

≪タックスヘイブン対策税制≫

経済協力開発機構(OECD)主導で策定されたBEPS(課税ベースの侵害と利益の流出)防止のための行動指針の趣旨を受け、H29年度に大きな税制改正のあったタックスヘイブン対策税制ですが、この制度も国際取引をめぐる税務調査では主要なテーマとなります。施設や活動の実態のない海外子会社、いわゆるペーパーカンパニーが稼得した所得を日本の親会社の所得に合算し課税する制度です。合算対象となる子会社に該当するかどうか(経済活動基準を満たしているかどうか)の事実認定が問題となるケースがほとんどです。

≪海外交際費等≫

海外顧客への営業において、大型取引を成約するために、相手先会社の相応の権限者に対して金品を提供することがあります。一種の贈賄行為なので、相手方から領収書は入手できません。「企業としての利益追求」と「法令遵守(コンプライアンス)」との両立ができないケースです。営業担当者は、受注のためにこのような裏金を用意することを余儀なくされますが、領収書の入手ができないため、架空の業務委託契約などを作成し支出する名目をつくります。税務上、このような裏金は受注謝礼金に該当し、交際費等として扱います。交際費等の損金算入制限により、一定の損金算入限度額を超過していれば損金算入は認められません。また、架空の業務委託契約を作成していれば、隠ぺい仮装行為とみなされ、重加算税の適用対象となります。

調査対策

国際税務の対策は、何より国際税務のブレイン(専門部署)を社内に設置し、ルーチーン取引、新規取引、スポット取引など各取引につき多角的に国際税務の問題がないかをチャックする体制を構築することに尽きます。上記の主な争点以外にも、海外取引においては、受注工作費や妨害排除などに要する費用などに対する交際費認定課税などもあります。国際税務に精通した者の目で問題の所在の有無を検討しないとなかなか課税リスクを払拭することはできません。外部の専門家に定期的にチェックしてもらうことも有効でしょう。具体的には、最低以下の項目については意識して取り組む必要があると考えられます。

  1. 移転価格税制上の「文書化」の推進(親子間取引価格の妥当性の説明準備)
    妥当性を客観的に証明できるプライシングの設定
  2. 社員の海外出張について・・・受益者の特定・対価の徴収
  3. 海外子会社への低付加価値グループ内サービス提供に係る対価の取り決め
  4. 子会社支援における適正な税務処理
  5. 海外受注案件にからむ機密費の処理(不正計算の排除)
  6. 海外送金に関して生じる源泉徴収義務

【関連記事】 
⇒ 
業種別の調査ポイント(その7)~貿易業~
⇒ 業種別の調査ポイント(その11)~国際取引~

 

その他の業種の税務調査への対応の仕方↓

 

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