1 国税局が行う税務調査
国税組織の事務分掌については、一般に「税務署」は税務調査を行い、「国税局」は税務行政に関する運営企画を行っていますが、「国税局」内にも税務調査を行う現業部隊が組織されています。
それが、「査察部」、「調査部」、「(課税部)資料調査課」です。これらの部署は、それぞれ「巨額脱税事案」、「大規模法人への調査」、「大口不正計算が見込まれる事案」など、税務署では対応が困難な事案の税務調査を取り扱っています。
- 国税局・「査察部」: 巨額脱税事案
- 国税局・「調査部」: 大規模法人への調査
- 国税局・「課税部(資料調査課)」: 納税大口不正計算が見込まれる事案
「調査部」は、資本金1億円以上の法人に対する税務調査を担当しています。
したがって、法人の場合、資本金1億円未満であれば「税務署」が所轄(注)し、資本金1億円以上であれば「国税局の調査部」が所轄(注)することになります。
(注)ここでいう「所轄」とは、申告書に記載された所得金額や税額の計算が適正であるかどうかを審査する権限、すなわち税務調査をする所轄権のことを意味します。
- 資本金1億円未満の法人:税務署(法人課税部門)が所轄
- 資本金1億円以上の法人:国税局・調査部が所轄
2 「税務署」が行う調査と「調査部」が行う調査の相違点
「税務署」が所轄する法人は中小企業が多く、そのほとんどがオーナー企業です。社長の財布と会社の財布が完全に分離していない傾向が強く、税務調査で問題となるのは、簿外のお金を作って社長が私的に流用する不正パターンが多くみられます。
したがって、「税務署」の法人調査では、「売上除外」や「架空・水増原価」などの不正計算に主眼を置いた調査が展開されます。
それに対して、「調査部」が所轄する法人は、会社の規模が大きいため、株主(資本)と役員(経営)が分離しており、また、横領やミス発注を抑制するための内部けん制も構築されているため、「税務署」の税務調査で主眼が置かれる「売上除外」や「架空・水増原価」が行われることはあまりありません。
ごくたまに大企業でも「架空・水増原価」などの不正計算が行われることがありますが、ほとんどの場合、担当社員の私的流用、すなわち「横領」によるもので、会社自身が被害者となるパターンです。
ちなみにこの「横領」の事実を把握した場合は、会社からとても感謝されます。国税局が会社に感謝される唯一の瞬間かもしれません(笑)。
「調査部」が行う調査は、「税務署」が行う調査とは異なり、法人の行った税務処理が税法に照らして適切であるかどうかを確認するところに重点が置かれます。
具体的には、国際取引、M&Aや組織再編、金融取引など、高度な税務知識が要求される分野が議論の対象となります。
また、受注謝礼金などの「裏金のねん出」や、社内予算制度における予算達成のための利益操作などもよく問題となる項目です。
3 「調査部」が行う調査の主眼点
(1) 国際取引
調査部の行う調査で主眼が置かれるひとつが「国際取引」です。
とりわけ海外子会社との取引はよく問題となり、タックスヘイブン税制、移転価格税制、財務支援(寄附金)など論点は多岐にわたります。
これらの分野は国際税務等の先端取引に精通した国際税務専門官が担当します。
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(2) 裏金(受注謝礼金・妨害排除費用・談合類似金)のねん出
また、損金に算入されない「交際費等」に該当する支出を、損金算入が可能な別の科目の支出に仮装する取引にも注意を払います。
例えば、
- 営業担当が受注を獲得するために支出する謝礼の費用で領収書が入手しにくいもの(受注謝礼金)、
- 業務を遂行するのを妨害する者たちに支出する費用(妨害排除のための費用)、
- 同業の競合業者に支払う入札降り賃、なだめ料(談合類似費用)、
などは、税務上「交際費等」として扱われるますが、資本金1億円を超える法人は、これらの「交際費等」を税務上の費用に計上することはできません(損金不算入)。
これらの費用は、一種の裏金に相当するため、領収書がもらえません。したがって、何らかの支出する名目を無理やり創り出す必要があります。
それが、架空の契約書を作成して業務委託料に仮装して支出したり、商流に組み込ませて相手に利益を供与したりする不正行為につがります。
これらの費用は、「企業の利益追求」と「企業の法令遵守責任(コンプライアンス)」が両立できない場合に「企業の利益追求」を優先し、「コンプライアンス」を犠牲にしてねん出した裏金に相当します。
このような交際費=裏金に焦点を置いた調査は、いわゆる「必要悪」といわれる部分の洗い出し作業に似ているかもしれません。
(3) 予算統制の束縛に起因した不正経理
大企業では、毎年様々な社内予算が決められ、部署ごとの営業成績や経費の支出などが管理されます。
予算統制が厳しい会社では、営業成績が予算に満たない場合、人事的にマイナスの評価が下されることもあります。
例えば、予算で設定された営業成績(ノルマ)が100の年に150の営業成績を達成した場合、当期は十分に予算を達成しているため、その一部を翌期に振替えることを考えます。翌期30を繰延べて当期の営業成績を120として社内に報告すれば、当期は予算達成、翌期も30のアドバンテージにより予算を達成できる公算が高くなります。
このような営業成績の平準化を企図した利益の繰り延べは、社内資料の日付の改ざんなどを伴うため、税務上、隠ぺい又は仮装の事実があったものとみなされ、重加算税が課されることになります。
また、経費に係る予算の場合、ある年の経費の支出額が予算額を下回れば、次の年度から予算を減らされることがあります。例えば、予算上100の経費を組まれていた年の年度末に60しか経費の支出がなかった場合、来期の経費40を当期の経費として社内報告し、予算の削減を回避します。
この場合、当期中の日付の架空の納品書40を業者などに作成させるため、税務上、隠ぺい又は仮装の事実があったものとみなされ、重加算税が課されます。
4 効率的なデータ分析
大規模法人に対する調査部の調査では、総勘定元帳をペラペラめくる光景はあまりありません。
膨大な会計処理データや業務データの分析のため情報技術専門官が調査に帯同するケースもよくあります。
例えば、「100万円以上の修繕費」、「現金決済の費用」、「海外のグループ法人との取引」など、抽出条件を情報技術専門官に依頼して、データを還元してもらうスタイルです。
それにより、会計処理データや業務データを効率よく分析し、調査対象取引を抽出することが可能となります。