【結論】
税務調査を行う場合は調査が始まる前にあらかじめ「事前通知」をするのが原則ですが、税務署署長が調査対象者の正確な税額を計算するために「事前通知」をしない方がよいと判断する場合は「事前通知」をすることが免除されます。したがって、「事前通知」をしないことに相当の理由がある場合は違法にはなりません。事実上、税務署長の判断にゆだねられており、税務署長の判断に理由がない(誤りがある)と認定することは困難であるため、「事前通知」のない調査を違法として訴えることの実益はありません。
【原則的な取り扱い】
税務調査の在り方について規定した税法(国税通則法)によれば、税務調査を行う場合、原則として納税者(又は税務代理人である税理士)に対して「事前通知」をすることを税務署や国税局に義務付けています。
調査担当者は、事前通知をする際に次の事項を告げなければなりません。
① 調査開始日時
② 調査開始場所
③ 調査の目的(例:○年分の法人税の申告内容の確認)
④ 調査対象税目
⑤ 調査対象となる期間
⑥ 調査対象となる帳簿書類その他の物件
⑦ その他の事項(調査対象者となる納税者の氏名・住所、調査担当者の氏名・所属官署など)
【例外的な取り扱い】
原則的な取り扱いは上記のとおりですが、税務署や国税局が「事前通知」をすることを免除される場合も税法(国税通則法)に規定されています。どういった場合に「事前通知」をしないことが許されるのか・・・。税法によれば次のように規定されています。(国税通則法第74条の10)
「税務署長等が調査の相手方である納税義務者の申告もしくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等もしくは税関が保有する情報にかんがみ、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等(=利益・所得のこと:筆者追加)又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、通知を要しない。」
かみ砕いていうと、要は調査対象者の正確な税額を計算するために税務署長が「事前通知」をしない方がよいと判断する場合はそれをしなくてもいいということで、すなわち税務署長(実際は税務調査担当者又はその直上司)の裁量に委ねられているといえます。
具体的には、例えば以下のような場合に「事前通知」がなされずに調査が行われると考えられます。
- 「現金商売」を行っている納税者に対して調査を行う場合
- 申告内容の分析やその他税務署内の情報に照らし大型不正が見込まれる調査案件である場合
- タレコミ・投稿などの情報提供を基に調査を実施する場合(例:自宅の金庫に裏帳簿があるなど、情報の内容が具体的でありかつ信ぴょう性(情報提供元の身元を明らかにしている場合など)がある情報提供の場合が該当します。)
- 査察部門が行う強制調査(調査の趣旨・目的から「事前通知」がされることはありません。)
- その他、事前通知により証拠隠滅が図られそれにより実態の把握がむつかしくなると考えられる場合