ご質問の考え方は一理あります。まさに、相続税は生前、所得税を支払った課税済みの所得を原資にしていますので、その相続財産に課税するのは、二重課税に該当するといえばそのとおりだと思います。
法人税の課税済み利益を原資とした配当金に対し、配当受領者に課税するのと同じですね。ただし、配当所得の場合、「配当控除」の制度により一定の二重課税への配慮がなされています。
しかしながら、ここでもう少し、「生前の所得税-相続税」の関係と「法人税-配当所得」の関係を見てみると、法人の配当が課税済利益の処分として、法人課税と配当所得の発生の時間的な連続性や経済的な緊密性が多分に認められるのに対し、被相続人の所得税と相続財産に対する相続税の関係においてはやや時間的な連続性は薄れ、二次的な課税関係が生じうる余地が法人税-配当所得の関係に比してあるのかなと考えます。
また、法人への投資者は出資先法人への法人税課税が直接的に自分の投資純資産(投資持分)を減額されるのに対し、相続税は相続財産を受取った相続人に対して課税されるもので、被相続人の生前の所得税については、相続人にとってなんら財産の減額要因を生じさせない(厳密に言えば将来の相続財産の遺留分減殺請求権の範囲内の持分が減じるかもしれませんが、そもそも財産を残す残さない(使い切る)は被相続人の専権事項である)ので、相続財産の一連の形成に至る課税と移転(相続)に係る課税との関係にいったん分断が生じていると見ることもできます。
また、課税理論もさることながら、富裕な家庭に生まれた子息は、貧困な家庭に生まれ育った子息に比べ、生まれながら経済的に優遇されていた考えることができます。そのうえ、被相続人から無償で相続財産が取得できれば、ますます貧富の差が埋まらなくなります。その相続のタイミングで所得の再分配がなされてもマクロ経済的には酷な制度とはいえないのではないでしょうか。